こんにちは、みのりんです。
前編に引き続き、私が創価学会員に絡まれた話をお伝えしています。
K「みのりん。乗り越えられない困難なんてないんだよ。『創価学会』って知ってる?」
その言葉を聞いたとたん、私はサーっと肝が冷えました。
あぁ、これはヤバい。
その瞬間席を立てばよかったのに、私はそれができませんでした。
お会計はどうしよう?千円札を置いて立ち去ろうか?
SNSで繋がっている共通の知人にどう説明しよう?
「自分の考えと違うことを聞かされたら癇癪を起こしてすぐに逃げる」なんて悪評を立てられたらどうしよう?
真っ白になった頭の片隅でそんなことをぐるぐると心配しながら、私は硬直していました。
彼女は水を得た魚のように早口でまくし立てます。
K「創価学会って『池田大作教』みたいに勘違いされがちだけど違うんだよ。本当は日蓮大聖人っていう人が始めたもので、池田先生はそれを実践してる師匠みたいな存在なの。さらに池田先生の師匠は戸田先生っていうんだけどね。創価学会はそういう師弟関係を大事にしてるの。私は池田先生を尊敬していて、お手本だと思ってるんだ。でね。乗り越えられない試練は絶対に与えられないの。魂の記憶というのがあって、今は忘れてるけど、輪廻転生のなかで『次はこういう困難を背負って生まれよう』って、自分で決めてきてるの。それが魂の記憶。だから起きたことには全部意味があるんだよ。私は、人は最後には絶対幸せになれるって信じてるし、それが真実だからね」
「最後」とは、一体いつのことなのでしょう。
現世が終わるとき、すなわち「死ぬとき」という意味でしょうか?
それなら、生後数ヶ月で虐待されて亡くなった子どもは死ぬ瞬間は幸せだったということでしょうか?
無差別殺人でいきなり命を奪われた人は幸せだったのでしょうか?
もしかすると、現世の話にとどまらないのかもしれません。
つまり、現世では困難ばかりの人生だったけれどそれは魂の学びの一部でしかなく、輪廻転生を繰り返す長い長い道のりの最後には幸せが待っている……という意味なのでしょうか。
わかりません。
わかりたくもありませんが。
彼女は目玉を落ち着きなくギョロギョロと動かしながら喋り続けます。
最初はキレイだと思ったその大きな瞳も、今やグロテスクな生き物にしか見えません。
興奮のあまり自分の身体すらコントロールできなくなっているのか、激しい身振り手振りと同時に時折抑揚を見失ったかのように唐突に大声を張り上げます。
K「だからねっ!?絶っっっ対幸せになれるの!誰でも!これはもう絶っっっ対だからぁっ!」
K「創価学会は192?193?くらいの国で認められてるんだよ!?国連加盟国と同じくらいの数だよっ!?」
K「とにかく南無妙法蓮華経を唱えて!これはすごいの!もう魔法の言葉といってもいいくらい!南無妙法蓮華経は『五体』って意味なんだよ!唱えたら身体から生きる力や乗り越える力がどんどん沸き上がってくるの!南無妙法蓮華経!南無妙法蓮華経っっ!」
本人は気付いていないのでしょうけれど、たいして広くもない喫茶店の中で繰り広げられるエキセントリックな説法(?)に周りのお客さんもざわつき始めています。
チラチラと刺さる視線。
「だからぁっ!!!」とKさんが叫ぶたびにビクっと肩を震わせる両隣のご婦人方。
せっかくの楽しいお茶の時間をぶち壊して本当に申し訳ありません。
海より深くお詫びいたします。
いえ、まぁ、私も被害者なんですけど。
身を乗り出して熱弁を奮うKさんの怪物じみた姿に本能的な恐怖を感じた私は、さりとて席を立つこともできず、できるだけ身体を離すように壁にぴったりと張り付いて相づちを打ち続けました。
私「うんうん、そうなんだ」
私「へぇ、なるほど」
すると彼女はこんなことまで言い出しました。
K「みのりんは今こうやって私の話を聞いてるでしょ?これは、私の口を通して仏の教えを聞いてるってことなの。だから、こうやって喫茶店の中にいたとしても、みのりんは周りより一つ高い『界』にいるんだよ!」
「界」とはどうやら「魂のステージ」のようなもののようです。
一番上は「仏界(ぶっかい)」だとか。
私は知らず知らずのうちに別のステージに移動してしまったようです。
確かに、お店に入ったときとは明らかに置かれたステージが異なっていることを身をもって感じます。
数十分前にはどこにでもいるただの喫茶店の客だった私が、今や「エキセントリック創価ババァに熱心な勧誘を受けるかわいそうな田舎女」に成り下がっているのですから……。
これが「界が上がる」ということですか?
だとしたら、界なんて上がらなくていいです。
むしろ下ろしてください。
もともと私がいた「界」へ。
どうかお願いします。
神様、仏様、池田大作様……。
強引に連れて来られた「界」が合っていないのか、だんだん頭が痛くなってきました。
時間の感覚も空間の感覚も曖昧になり、かといって意識をシャットダウンして相づちマシーンになりきることもできず、拒否反応を起こしそうな情報をひたすら脳に叩き込むだけの地獄の時間が過ぎていきます。
そんな私の気もそぞろな様子を見抜いたのか、Kさんは生き物のように蠢(うごめ)いていた口をぴたりと閉じました。
え?
終わっ、た……?
K「で。感想は?」
もちろん終わるはずはありませんでした。
※後編へ続く